Connecting the Dots

アメリカの公衆衛生大学院留学に関するブログです。

ワクチンの話 ~Vaccine Hesitancyについて②~

Vaccine Hesitancy(ワクチン接種に対する躊躇いや拒否)について、前回(Vaccine Hesitancyについて①)の続きです。

 

『人々はなぜワクチンを打つのを躊躇うか?』

という問に対して、前回は1~3まで書いた。

 

1.ワクチン自体の成功

2.偶発的な時間的な前後関係

3.ヒューリスティック

 

そして書き残していた4番目の要因

 

4.その他の要因

・政府や製薬業界に対する印象や恐れ

・天然物(natural products)への関心の高まり

・マスメディアやインターネットの影響

 

これらは人それぞれだと思うが、そもそもワクチンを産生、認可、推奨する組織や会社を信頼できない場合、ワクチンに対する不安が増すのは自然なことだと思われる。マスメディアやインターネットの役割については、情報の受け手が情報をどのように解釈するかで変わるだろう。

 

私はこれまで2(偶発的な時間的な前後関係)と4(その他の要因)は大凡理解していた。特に2に関しては、公衆衛生大学院にいると色々な授業で何度も何度も似たようなコンセプトが出てくるので、頭に叩き込まれる。

1(ワクチン自体の成功)と3(ヒューリスティックス)については、言われてみればそうだよなと思えるものの、なるほどの連続だった。1つだけでも十分すぎるくらいなのに、これら4つの要因をきいたときに、複雑だ…と実感した。

 

ワクチンは自分が病気にかからないためにあるだけでなく、感染が広がるのを防ぐことで周囲の人(特にお年寄りや小さな子ども、基礎疾患のある人)の命を救う役割もある。

効果と安全性が示されたワクチンはできるだけ接種率を高め、ワクチンを打っていれば防げる病気は防げるような世の中になってほしい。一方で、Vaccine hesitanceには様々な要因が絡んでおり、とても複雑で、そうしたワクチンすべての接種率を高めるのは一筋縄ではいかないということがよくわかったレクチャーだった。

ブログのタイトルを変更しました

この度ブログのタイトルを変更しました。

 

1年前にこのブログを始めた頃に書かせていただいた通り、このブログは主にMaster of Public Health(MPH)をはじめとした公衆衛生大学院(SPH)への留学を検討しているけど実際どうなんだろうと思っている人がこのブログに辿り着いたときに読んでもらえたら嬉しいなと思って始めました。私が出願した頃と比べてもSPHに関する情報は入手しやすくなっていると思いますが、今も当初の気持ちは変わっていません(もちろん、MPH出願検討中の方に限らず多くの方に読んでいただければ幸いです)。ただ、ブログを始めた頃は一般的なMPH受験の内容などを中心に書こうと思っていたのですが、徐々に留学先で個人的に感じたり学んだりしたことを書きたいという気持ちにシフトしてきました。ちょっとこれまでのタイトルだと硬すぎるかな…と思うようになってきました。

 

”Connecting the dots”という言葉はご存知の方はご存知だと思いますが、私の好きな言葉の1つです。2005年のスタンフォード大学の卒業式でSteve Jobsがスピーチをされたのですが、その中のフレーズの1つがこのConnecting the dotsでした(もしご覧になったことがない方がいましたら、15分くらいの動画でYoutubeなどですぐに見つかると思います)。私は当時あのスピーチを初めて聞いたときは鳥肌が立ちました。

 

SPH留学に限らず、新しいことにチャレンジするときは不安を感じたり落胆したり、うまくいかないことも多いと思います。私自身、理想と現実の差を感じたり、未だに不安や心配な気持ちもありながら日々を過ごしています。MPHにしろMSPHにしろ、SPH(特に修士課程)を修了したときに取得できる学位は免許などと違ってそれがあるからといってすぐに何かができるわけでも、保障されるわけでもありません。仕事をしていた人は日本でのキャリアを中断することにもなりますし、金銭的な意味でも不安を持ちながら留学する人は少なくないはずです。『今勉強していることは、本当にこの先役に立つのだろうか?』という不安は、多かれ少なかれ感じる可能性があると思います。

 

”前を向いても(looking forward)今学んだり経験しているdotがどのようにこの先のdotにつながっていくかは分からないが、後から振り返ったとき(looking backwards)にはdotとdotを線で結ぶことができる。だから信頼しなくてはいけない。”

迷ったり自信がなくなったりしたときはこのスピーチの内容を思い出して、これからも日々を過ごしていこうと思っています。

 

尚、もしもMPH受験や出願に関することで聞きたいことがあるという方は、こちらの

お問い合わせフォームまで内容を送ってくだされば、お返事させていただきます。

ワクチンの話 ~Vaccine Hesitancyについて①~

先日”Vaccine Hesitancy”についてのレクチャーを受けた。Vaccine Hesitancyとは、ワクチンに対する”躊躇、ためらい、拒否”などのことだ。この内容についてまとめた講義を聞いたり勉強したことはなかったので、なるほどの連続だった。

 

特に印象に残った部分は、シンプルだが

”(ワクチンを躊躇う)人々はなぜワクチンを打つのを躊躇うか”

という部分。

 

人によって、推奨されている全てのワクチンを拒否される方から、特定のワクチンのみを打たないという方まで、Vaccine Hesitanceといっても様々なタイプがある。以下は、特に限定せずに話を進めさせていただく。

 

1.ワクチン自体の成功

ある重大な後遺症を残す・あるいは死亡率が高い感染症が爆発的に流行してしまったとして、その後効果的なワクチンが開発されたとする。このワクチンが順調に広まり、接種率がある程度高まると、流行が収束していく。病気にかかる人がほとんどいなくなったとき、今度はワクチンによるadverse event(有害事象)が目立つようになる。ワクチンは一定の割合でadverse eventを起こすため、ワクチンの接種率が高くなるとadverse eventの数も増える。このため、その病気自体より有害事象や副作用のほうに人々の関心が向く。そこで、ワクチンに対するイメージが悪化したり相対的な不安が高まったりして、接種しない人たちが出てくる。

接種率が下がると忘れかけた頃に再流行(≒アウトブレーク)が起こるのだが、アメリカでは麻疹や百日咳が最近の例として挙げられていた。

 

2.偶発的な時間的な前後関係

疫学などで因果関係を勉強すると非常にしっくりくる内容だと思われるが、時間的な前後関係(temporal relationship)は原因と結果の関係を示す上で必要ではあるが、十分ではないという意味。”偶然”にワクチンを打った直後にある症状が出てしまうことはあり得るということだ。もちろん、それが偶然なのかワクチンによるadverse eventなのかは詳細な検討が必要だが、中にはワクチンとは無関係である(と科学的に判断できる)がワクチンを接種した後に何らかの症状が出てしまうことがある。このため、ワクチンに対する躊躇い、あるいは拒否につながるという内容。

 

3.ヒューリスティック

(心理学的な意味における)ヒューリスティックとは、”人が複雑な問題解決などのために、何らかの意思決定を行うときに、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則のことを指す。これらは、経験に基づくため、経験則と同義で扱われる。判断に至る時間は早いが、必ずしもそれが正しいわけではなく、判断結果に一定の偏り(バイアス)を含んでいることが多い(wikipediaより)。

 

ここで使われるヒューリスティックとは、一般的に人々はワクチンによるリスクを実際のリスクよりも高いと感じるということ。やや以前の文献にはなるが、”Vaccine safety: current and future challenges. Pediatr Ann. 1998 Jul; 27(7): 445-55"に書かれている。

 

ワクチンは

・自らがコントロールはできない

・人工的に作られた

・自発的に行うものではない(強いられて行うものである) →これは訳し間違っているかもしれないが、要するに定期のワクチン接種というのは、自分で進んで打つというよりは国などが接種を半ば強く推奨しているため打つことになっているというニュアンス

 

などの特徴があり(実際にはもっとたくさんある)、これらの特徴がある物事に対して、人間は実際よりもリスクが高いと感じる傾向にあるとのこと。ワクチンはヒューリスティックスな側面からもリスクが高いと感じてしまう傾向にあるものであり、レクチャーの中で教授は「これは自然なことなんだよ」と説明されていた。

 

尚、”自らがコントロールはできない”ものはリスクが高いと感じてしまう例としては、自動車と飛行機が挙げられる。自分で運転する自動車のほうが、パイロットが操縦する飛行機に比べて実際に事故が起こる確率は高いが、飛行機のほうがリスクがあると感じてしまう(もちろん人によって感じ方は異なると思うが)という話だ。

 

4.その他の要因

続く・・・

意志の大切さ

これまで他の記事の直接の引用はしてこなかったが、少し感じることがあったので。

 

"東大・京大・早慶 一流企業のエリートが「日本ヤバイ」と言う理由”(現代ビジネス - 2018.12.14)という記事を読ませていただいた。

 

まず、記事の中で最も力点が置かれている部分ではないと思うが、

衰退傾向にある日本の半導体産業について分析しなさい”

実際の試験用紙を開いてこのような内容の問題が目に入ってきたら、自分ならかなり動揺するだろうなぁ…と感じた。

 

そしてこれは、Public Healthの世界にも類似した部分があり得ると思った(”衰退”という表現がどこまで当てはまるかどうかは分からないが)。こちらの授業を受けていても、時々日本の事柄が例として出されることがある。良い・悪いという意味合いの例だけではないが、それでも時々ドキッとすることがある。変化するというのは難しいことだと思うけど、医療やPublic Healthにおいて日本が他の国々を参考にして変わったらもっと良くだろうなぁと思うことはいくつもある。ただ、実際の授業のディスカッションや試験の中で、上記の試験問題のような内容を目にしたことは、これまでにない。

 

本文の中で筆者は”意志の重要さ”について強調していた。

 

”自分がこれをやりたいを持つ”、とても大切だと思う。

私とは業界や勉強している内容も異なるが、筆者が苦悩されている部分について共感するところがあった。

 

そんな私は、一応これまで個人的には”自分のやりたいこと”を意識しながら進路を選んできたつもりだ。公衆衛生大学院への留学も、自分のやりたいことに近づくために決意した。Statement of Purposeにも、『卒業後は〜〜をしたい、〜〜を実現したい』という内容を書いた(推測になるが、MBA受験においてもStatement of Purposeは非常に重要な書類で、非常に具体的な内容が求められると聞くので、その受験に合格された筆者たちも具体的な短期目標、長期目標等を書かれただろう)。

 

ただ、こちらにきて、自分のやりたいことというのがまだまだ思っていたよりも抽象的だなと感じることがある。そして、色々うまくいかなかったり、新しいものに触れたりしながら、正直多少なりともぶれている(と実感している)のも事実で、実際に

 

将来、何がしたいんだい?”

と尋ねられると、一瞬考えてしまい、一応答えることはできても、

 

後から振り返ったときに、

『なんかごまかしていないか、本当にそれが自分の答えなのか…』

と自問しながらため息が出てしまうこともある。

 

なので、恥ずかしい話だが、未だに自己紹介で何を話すか立ち止まって考えてしまうことがある。

 

やりたいことがぶれず、確固たるものがあることは素晴らしいことだと思う。

ただ、それを見つけるのも容易ではないと思う。

それから、これがやりたい!と強く自分の中で思っていても、時間の経過や環境の変化によって変わることはあり得ることだと思う。

 

結局のところ留学中、こんなことを自分に問い続けている気がする。

自分が真面目に考えすぎているのかもしれないが。

 

楽な過程ではないのだが、後から振り返ったときに貴重な時間だったと思えるのではないかと期待しつつ、毎日迷いながら過ごしている。

出願の季節

頻繁に更新するというわけにはいかなかったが、ブログを始めてからなんとかもうそろそろで1年というところまできた。(特に意味はないけど、、)よかった…。

 

今年も出願の時期に入っている。

 

多くの方にSPHで勉強してほしいなぁと思う。国内、海外問わず。

この気持ちは変わらないかな。

Paperlessな環境と勉強について③ ~ついに購入~

Paperlessな環境と勉強について①でも触れさせていただいたように、以前からタブレットの購入について悩んでいたのだが、先日とうとうI Pad Pro 2018(12.9インチ)を購入した。

 

元々I Padは一台持っていたのだが、確か6年くらい前のものだと思う。今回新しいI Pad Proを使ってみて、5年足らずでここまで進化したのか…本当にすごい…と感じている。

 

今年の春くらいから当時の最新機種を購入しようか迷っていたのだが、6月にAppleが新製品を発表するという記事をみてそれまで待とうと思い、ワクワクしていたのだがそのときはI Pad Proは含まれていなかった。ただ、秋に発表される可能性が高いというニュースをちらほら目にしたので、う~ん、どうせなら秋まで待とうかなと思い、待っていた。次の発表は確か9月にあったと思うが、またもI Pad Proは発表されず…。

もう年内はないのかな…と不安に思っていたが、この度ようやく待ちわびた新しいI Pad Proが発売されたのである。

 

期待が大きかった分、もしあまり使いやすくなかったらどうしよう…という不安な気持ちも入り混じりながら使い始めたのだが、今のところ・・・すごくいい感じで、かなり気に入って使っている。

 

主に使用しているのは、授業中と論文を読むときだ。

 

私がとっている授業の8~9割は事前に大学院のコースサイトにスライドがアップロードされる。授業中はそこに書き込みながら教授の講義を聴くのだが、タイピングよりも実際に書き込んだほうが自由にできて、そして印象に残るような手応えがある。

 

そして、論文(に限らず様々なリーディング)がとても読みやすくなった。

マーカーで線を引いたり、メモを書き込んでいくという作業がとてもしやすくなり、本当に印刷した紙に書き込んでいるような感覚で論文が読み進められる。多いときはかなりのページ数になってしまうので(特にPaperタイプの課題を提出するとき)、印刷するとかなりの枚数の紙がたまっていってしまう。この点をどうにかしたかったが、今のところ正にこの問題が解決されて嬉しく感じている。

また、私は勉強するときに”色”を駆使して書いてある内容を識別したり覚えたりするのが好きで、マーカーも黄色・黄緑・ピンク・オレンジ・水色など、複数の色を使っている。(非常に細かい話になるが…)このマーキングが、I Pad Proを使い始めてとてもしやすくなった。

 

まだ使い始めて1ヶ月も経っていないが、大切に使っていきたい。

費用効果分析:CEA(Cost-Effectiveness Analysis)について③

ICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio)を算出する際の難しさについて。

前回CEAについて②の中で書いた通り、費用対効果を分析する際、分子にはCostの差、分母にはEffectivenessの差を記載する。

 

たとえば、治療Aと治療Bを比較する際は、

ICER for B vs A =(Cost B -Cost A) / (Effectiveness B - Effectiveness A)

となる。

 

国によっては、このICERがある値(Willingness-to-pay Ratio)を超える場合、BはAよりも効果に優れていたとしてもコストがかかりすぎるので保険診療に加えるべきではないと考えられている。

 

私が難しいと感じたのは、このCost, Effectivenessを算出するプロセスだ。よく考えたら当然なのかもしれないが、最初にICERの式をみたときに「なんてシンプルなんだ!」から始まったので、そのギャップを感じたのだろう。

 

Costはたとえば治療費だけなら客観的にみて妥当な値が得られそうだが(ただし診療報酬制度ではない国、例えばアメリカでは保険者によっても医療費が異なる)、対象とする疾患やその疾患に対する介入方法に関係ありそうなCostはできる限り考慮するため、繰り返しになるが通院のための交通費とか、病気になってしまったための生産性への影響(病気にかかる前と比べて減少した給与等)なども含める。これは様々な前提をもとに計算されるため、実際の値とはずれが生じる可能性が出てくる。

Effectivenessは、”生活の質(Quality)を考慮に入れた(adjustした)生存年(Life Years)”=QALYを計算することが多いが、Qualityを数値化するというプロセスを経るため、どうしても人それぞれの主観が入ってしまう。

また、これら以外にも疾患にかかる頻度とか、合併症(例えば治療Aによる副作用)の頻度等も考慮する必要がある。確率が少し変わるだけで全体の数値にかなりの影響が出る場合も多い。

 

従って、分子、分母の中の1つ1つの要素にある程度の幅が出てくるので、最終的に計算されたICERにはかなりの幅があることが多いのだ($5,000~$30,000/QALYといった具合に)。費用対効果分析、本当に信頼できるのか…と最初は思ったが、現時点ではこの計算方法が費用対効果を分析するという点において最も信頼できる妥当な方法なのだろう。

 

思うに、疫学研究にも様々な前提条件が存在するが、その置かれた条件の中で信頼性の高い結果が生まれ、その積み重ねが質の高いエビデンスとなるのだろう。それと同じように、限界はあるかもしれないがその中で質の高いCost-Effectiveness Analysisをするべきなのだろう。