Connecting the Dots

アメリカの公衆衛生大学院留学に関するブログです。

費用効果分析:CEA(Cost-Effectiveness Analysis)について③

ICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio)を算出する際の難しさについて。

前回CEAについて②の中で書いた通り、費用対効果を分析する際、分子にはCostの差、分母にはEffectivenessの差を記載する。

 

たとえば、治療Aと治療Bを比較する際は、

ICER for B vs A =(Cost B -Cost A) / (Effectiveness B - Effectiveness A)

となる。

 

国によっては、このICERがある値(Willingness-to-pay Ratio)を超える場合、BはAよりも効果に優れていたとしてもコストがかかりすぎるので保険診療に加えるべきではないと考えられている。

 

私が難しいと感じたのは、このCost, Effectivenessを算出するプロセスだ。よく考えたら当然なのかもしれないが、最初にICERの式をみたときに「なんてシンプルなんだ!」から始まったので、そのギャップを感じたのだろう。

 

Costはたとえば治療費だけなら客観的にみて妥当な値が得られそうだが(ただし診療報酬制度ではない国、例えばアメリカでは保険者によっても医療費が異なる)、対象とする疾患やその疾患に対する介入方法に関係ありそうなCostはできる限り考慮するため、繰り返しになるが通院のための交通費とか、病気になってしまったための生産性への影響(病気にかかる前と比べて減少した給与等)なども含める。これは様々な前提をもとに計算されるため、実際の値とはずれが生じる可能性が出てくる。

Effectivenessは、”生活の質(Quality)を考慮に入れた(adjustした)生存年(Life Years)”=QALYを計算することが多いが、Qualityを数値化するというプロセスを経るため、どうしても人それぞれの主観が入ってしまう。

また、これら以外にも疾患にかかる頻度とか、合併症(例えば治療Aによる副作用)の頻度等も考慮する必要がある。確率が少し変わるだけで全体の数値にかなりの影響が出る場合も多い。

 

従って、分子、分母の中の1つ1つの要素にある程度の幅が出てくるので、最終的に計算されたICERにはかなりの幅があることが多いのだ($5,000~$30,000/QALYといった具合に)。費用対効果分析、本当に信頼できるのか…と最初は思ったが、現時点ではこの計算方法が費用対効果を分析するという点において最も信頼できる妥当な方法なのだろう。

 

思うに、疫学研究にも様々な前提条件が存在するが、その置かれた条件の中で信頼性の高い結果が生まれ、その積み重ねが質の高いエビデンスとなるのだろう。それと同じように、限界はあるかもしれないがその中で質の高いCost-Effectiveness Analysisをするべきなのだろう。