Connecting the Dots

アメリカの公衆衛生大学院留学に関するブログです。

ワクチンの話 ~Vaccine Hesitancyについて①~

先日”Vaccine Hesitancy”についてのレクチャーを受けた。Vaccine Hesitancyとは、ワクチンに対する”躊躇、ためらい、拒否”などのことだ。この内容についてまとめた講義を聞いたり勉強したことはなかったので、なるほどの連続だった。

 

特に印象に残った部分は、シンプルだが

”(ワクチンを躊躇う)人々はなぜワクチンを打つのを躊躇うか”

という部分。

 

人によって、推奨されている全てのワクチンを拒否される方から、特定のワクチンのみを打たないという方まで、Vaccine Hesitanceといっても様々なタイプがある。以下は、特に限定せずに話を進めさせていただく。

 

1.ワクチン自体の成功

ある重大な後遺症を残す・あるいは死亡率が高い感染症が爆発的に流行してしまったとして、その後効果的なワクチンが開発されたとする。このワクチンが順調に広まり、接種率がある程度高まると、流行が収束していく。病気にかかる人がほとんどいなくなったとき、今度はワクチンによるadverse event(有害事象)が目立つようになる。ワクチンは一定の割合でadverse eventを起こすため、ワクチンの接種率が高くなるとadverse eventの数も増える。このため、その病気自体より有害事象や副作用のほうに人々の関心が向く。そこで、ワクチンに対するイメージが悪化したり相対的な不安が高まったりして、接種しない人たちが出てくる。

接種率が下がると忘れかけた頃に再流行(≒アウトブレーク)が起こるのだが、アメリカでは麻疹や百日咳が最近の例として挙げられていた。

 

2.偶発的な時間的な前後関係

疫学などで因果関係を勉強すると非常にしっくりくる内容だと思われるが、時間的な前後関係(temporal relationship)は原因と結果の関係を示す上で必要ではあるが、十分ではないという意味。”偶然”にワクチンを打った直後にある症状が出てしまうことはあり得るということだ。もちろん、それが偶然なのかワクチンによるadverse eventなのかは詳細な検討が必要だが、中にはワクチンとは無関係である(と科学的に判断できる)がワクチンを接種した後に何らかの症状が出てしまうことがある。このため、ワクチンに対する躊躇い、あるいは拒否につながるという内容。

 

3.ヒューリスティック

(心理学的な意味における)ヒューリスティックとは、”人が複雑な問題解決などのために、何らかの意思決定を行うときに、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則のことを指す。これらは、経験に基づくため、経験則と同義で扱われる。判断に至る時間は早いが、必ずしもそれが正しいわけではなく、判断結果に一定の偏り(バイアス)を含んでいることが多い(wikipediaより)。

 

ここで使われるヒューリスティックとは、一般的に人々はワクチンによるリスクを実際のリスクよりも高いと感じるということ。やや以前の文献にはなるが、”Vaccine safety: current and future challenges. Pediatr Ann. 1998 Jul; 27(7): 445-55"に書かれている。

 

ワクチンは

・自らがコントロールはできない

・人工的に作られた

・自発的に行うものではない(強いられて行うものである) →これは訳し間違っているかもしれないが、要するに定期のワクチン接種というのは、自分で進んで打つというよりは国などが接種を半ば強く推奨しているため打つことになっているというニュアンス

 

などの特徴があり(実際にはもっとたくさんある)、これらの特徴がある物事に対して、人間は実際よりもリスクが高いと感じる傾向にあるとのこと。ワクチンはヒューリスティックスな側面からもリスクが高いと感じてしまう傾向にあるものであり、レクチャーの中で教授は「これは自然なことなんだよ」と説明されていた。

 

尚、”自らがコントロールはできない”ものはリスクが高いと感じてしまう例としては、自動車と飛行機が挙げられる。自分で運転する自動車のほうが、パイロットが操縦する飛行機に比べて実際に事故が起こる確率は高いが、飛行機のほうがリスクがあると感じてしまう(もちろん人によって感じ方は異なると思うが)という話だ。

 

4.その他の要因

続く・・・